Billie Holiday を高価なオーディオ装置で聴くな!

いろんな方が読まれているこのブログにおいて身内ネタで恐縮だが、TJCのメンバーである Jazz in Heart さんから、会で集まる場所があれば使ってくださいとの有難いお申し出があり、真空管アンプが持ち込まれてきた。LUXKITの往年の名器、A3500だ。ズシッと重たいこのアンプを抱えると、オーディオが趣味の王様であったころのことがあれこれ想い出され、それだけでウルウルっと来てしまう。

さっそくパワースイッチON・・・真空管のヒーターが淡いオレンジ色を放ち始めるのを待って、Nat King Cole を鳴らしてみる。やっぱり、球(タマ)のアンプはいいねぇ。何が違うって、やっぱり音が柔らかくてふくよかに聴こえる ・・・ それが単に視覚的な要素や、思い入れだけから来る錯覚であろうとなかろうと、そんなことはどうでもいい。いい(好い)ものはいい(良い)んだから。

30年近く前に手作りされ、特にメンテナンスもされていないように見受けられるアンプだが、スイッチオンで何の問題もなくすばらしい音が溢れ出てくる。いいかい、若造ども!チミ達が遊んでいる"破粗困"なるもの・・・5年もすれば昇天している(壊れなくても時代遅れになる)ようなおもちゃとは出来が違うんだよ。(恐ろしい単純比較してますか・・・アタシ?)

横から家内が一言・・・
  ビリー・ホリデイとかが似合うんじゃないかしら?

  いやいや・・・Billie Holiday にはこのオーディオ装置ですら似合わないのだよ・・・。

というわけで、引っぱりだしてきたのが、左写真の真空管ラヂオだ。Billie Holiday はこれで聴くのさっ。(なぜにここだけ気取った文体?)

昭和30年前後の作と思われるSANYO電機製SS-55型という5球スーパーを、崩れかかった筺体から引き摺りだし、裸で鳴らす。スピーカーのコーン紙などもうぼろぼろで、二千年前の古墳から発掘されてきた壁画と同じように扱わなければ、目の前で霧散してしまう・・・そんなラヂオだ。こんな現役ラヂオの前では、LUX君もまだ駆け出しの青二才みたいに見えてくる。

音源は写真右下に写っているTASCAM の ICレコーダーに入っており、そのライン出力をAM変調器に入れてやる。いわばミニラジオ局なのだが、音をいったん電波にして、ラジオのアンテナ端子にぶち込む。

まあ、手の込んだ聴き方!しかも Hi-Fi (この言葉自体も死語)からは程遠い Lo-Fi の世界だ。時々ピチピチと真空管が断末摩の悲鳴を上げるし、おっ、逝っちゃったかなと思うほどの沈黙が来てはまた突然鳴りだしたりする。

いまにも崩壊しそうな、なんとも儚いラヂオなのだが、これに Billie Holiday の歌が実によく合うのだ。これはもうオーディオ論なんて次元では語れないような気がするのね・・・。
Billie Holiday の生涯を手短な言葉に変換するのは大いに憚られるところだが、仮に昔流行った「実存的」という言葉に置き換えてみると、まさにこのラヂオは、その彼女の人生の在り方、そしてそこから発せられた歌に共鳴出来うる稀有な実存的装置なのではないか?とさえ思えてくる。

  ははは、エライ展開になってきた。でも今日は語っちゃうよ・・・ 

いまどきのオーディオ機器は、いつスイッチを入れても同じ条件で動作する。しかし、この古いラヂオはいつ何時息を止めてしまうかもしれない儚さにおいて自らの存在を示しているのだ。それが Billie Holiday の生き様と深いところで繋がっているような気がしてならない。次の瞬間には音が止まってしまうかもしれない機械・・・聴き漏らすと二度と帰ってこないかもしれない音・・・・一期一会・・・そんな緊張感に包まれる。

それにしても、上記のSANYOラヂオは少しばかり可哀想すぎる。いくらジツゾンがどうのって気取っても、裸じゃ寒すぎる。(というのか、取り扱いが怖いのよね・・・中間周波増幅段の6D6の天辺についているプレートキャップに手が触れた日には、感電してこちとらが昇天してしまう。)

もう少しマシなラヂオを一台紹介して、そろそろ蘊蓄を切り上げよう。写真左は、Tokyo Condor ブランドの豪華な8球スーパーラジオだ。プロが整備したラジオで、こちらはもう半世紀ぐらいは鳴り続けることだろう。
こちらのラヂオ、いまのところ Billie Holiday じゃなくて、Julie London のような sophisticated lady がお似合いの逸品なのだ。


(筆:しろくま)


コメント
しろくまさん

 素晴らしいコメントを有難うございます。既にお蔵入りしていた真空管アンプがTJCの皆さんに楽しんで頂ける機会を与えて頂き有難うございました。私がオーディオに入れ込んでいた1980年代はアナログからデジタルへの以降時期で、あちこちで色々な論議があったことを思い出します。この真空管アンプもそのような時期に製作したものです。結局、実使用時間はたいしたことは無くそのまま倉庫行きとなりました(メーンはデンオンのトランジスタアンプでした)。ただ忘れられない思い出が一つあります。それは出力管をナショナルの6CA7からテレフォンケンのEL34に差し変えて聴いていた時代があるのですが(音質は確実に向上)、ある夜、ソニークリスのサタディーモーニングが全く違う音に聞こえるのです。あまりの美しい響きに感動した次に日、EL34が昇天しており、不思議な体験をしたような気持ちになったものです。
  • Jazzインハート
  • 2010/05/08 7:58 PM
JAZZインハートさん>

6CA7(EL34)は、お顔はスリムで美形、しかも中身がしっかり詰まったとても利発な貴婦人という感じのタマですね。時にやや熱くなられるところもあり、周りの心配もしなきゃいけないのですが、それもまた味の一つですね。タマで音が変わるというのはよく聞きますが、ナショナルとテレフンケンでそんなに変わるんですね。昔、業務用のアンプとかを開けると必ずといっていいほど、Nationalと書かれた6CA7が鎮座されておりました。

最後にお書きの逸話は、何かとてもロマンチックというか、ある種「哀れの美」を象徴するかのようなお話ですね。燃え尽きる直前にもっとも美しい光を放つ蝋燭をイメージしてしまいました。




  • しろくま
  • 2010/05/09 9:39 AM
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